ちょっと情報っぽい話が続いたので、最後にお話っぽいお話をしますね!
旅の5日目と6日目、10月6日~10月7日にセヒーツァ村からツァウ村へ行って、そこからマツィアラ村へ行った話。そのあと、旅の19日目、10月20日に再びマツィアラ村を訪問した話です。何で2度もマツィアラ村に行ったのかって?それは読んでのお楽しみ!
今日は良くわからない。ツァウという町が次なる目的地だが45km(これも正確な数字か不明)あるという。まともな距離じゃないなあ。
午前中に歩き切るのは無理だから午前中行ける所までいって、お昼は休憩して、夕方また歩く、という方法がある。それか、途中の小さな集落に泊まらせてもらうか、そうでなければヒッチハイクだなあ。
ともかく歩き始める。街道に入って少し行くと、薪を頭に載せたすごくスタイルの良い女性に声をかけられる
ー何処へ?
ーツァウへ。
ー何キロあるのか知っているのか
ー45キロと聞いている
ー水は持っているのか
ーはい、3リットルここに
ー分かった、行け
"OK, Go."というシンプルな命令形にぞくぞくっとくる。アフリカで初めて恋に落ちた瞬間だった。
しかし、加藤はこのとき、2日後にもっと激しい恋に落ちることをまだ知らなかったのであった。
それはそうと、今日は昨日ほど暑くないが、4日目ということもあり肩も足もボロボロである。足はごまかしごまかしで何とかやっていけそうだが、肩がしんどい。
ふと思いついて、荷物のリストラを行うことにする。そういえば新田次郎『孤高の人』上下全2巻というずっと運んでた。
なぜいままでさんざんこのような決して軽くない荷物をしょってたのだろう。
きっとこれは加藤文太郎の呪縛に違いない。
2冊の新潮文庫を長袖Tシャツにくるみ、セヒーツァ村から10kmの荒野、ブッシュツリーの根元に奉納する。
許してくれ、加藤文太郎よ。ここがアフリカだ。
何とかかんとか30キロほど行くとゲートがある。"Foot and Mouth Checkpoint"と書いてある。つまり口蹄疫検査所だ。時刻は12:45。これから暑さはピークを迎えるところだ。あと15キロ。
さあ、どうする。
とりあえず休憩だ。
ゲートの脇に売店が立っていて飲みのものと軽食を提供している。水を買うと氷である。これが美味しい。これが僕にとってのボツワナ料理だなあ、と思う。ちびちび氷が溶けていく。それを飲む。その時間の流れ方が好きだ。
検問所の方々とおしゃべりしてすっかりリラックスしてしまった。この後どうしよう、と思ったがみんなが「タカ、がんばれ」みたいなことを言うので、歩みを再開する。時刻は13:30。
しかし暑さがキツい。今日から進行方向が変わって北進しているのだが、北中する太陽が正面から当たって厳しい。ぐんぐん体温が上がるのが分かる。
14:15、歩行を中断して15:30を目途として休憩をすることにする。木陰に横たわり牛と一緒にぼーっと時間を過ごす。ちびちびと氷水を飲む。風が強くなり、砂埃がすごい。
15:45、歩行を再開するが、体がついていかない。なかなかペースに乗らないのだが、とぎれとぎれに歩く。
17:15ごろ、リズムがつかめないのは腹が減っているからだ、とおもむろに食事を始めるが、ここで水が尽きて「詰み」である。単に中断の理由を、水が尽きたことにしたかったのかもしれない。ツァウまで約5キロというところである。
夕陽に向かって「悔しー!」と叫びながら通る車を待つ。乗せていただいてしばらくするとツァウの村についた。
バーとショップのある村。私の弟がちょうど近くに住んでるからそこに泊まりな、と素早く手配してくださる。大変ありがたい。
車を降りようとすると、ちょうどバッグにつけていたお守りの一つがちぎれて、インドネシアの人形が取れてしまったのでこれをお子さんへのプレゼントとした。
ライヒとザイン、という2人の男の住むアパートに泊まらせていただく。ライヒはアフロヘアーの男で、たいへん面倒見のよい方であった。すばやく料理と風呂を用意してくださる。川魚のピリ辛にパリチ、という非常に伝統的な料理を、風貌に似合わず(?)もてなしてくださった。料理は手づかみで食べた。
ザインは会うなり「俺はブッシュマンだ」と言う。酔っている。風呂に入ってると何度も何度も浴室に入ってくるし、3人分のビールを買ったのに全部自分で飲んじゃうし、ととぼけた奴だが、いい人である。
食事がすんでバーに繰り出すとみんな来ている。
満点の空ビールを飲んでいる。星空の下で飲むのはいいですね、と一人の男に話すと、彼は真剣な顔で「知ってるかい?」と問いかける。
知ってるかい?火星の表面で暮らそう、って思ったときに何が困るか、って?
何で急にそんな質問をするのか、と思いながら、
バーが無いことですかね、
とかとぼけた答えをすると。
そんなものは地球から持ってくればいいだろ
とまじ突っ込みされる。
聞くと、「お前ニュースを見てないのか?」とあきれられる。「今日、人類が初めて火星に降り立ったんだよ」
きょーじんるいががはじめてーー♪
と、頭の中に歌をながしながら、きょとん、としてしまう。
火星かあ。確かに、お隣の惑星だよなあ。
そういえば、もう1週間くらいニュースを見ていないなあ。火星に着いたんだあ。と感心していると、
「お前、惑星を全部言えるか?」
と天体トークを重ねてくる。
不思議な夜であった。
そろそろ今日は休息日にしたかったのだけど、ライヒに「明日何時に出るの?」とか言われて、ちょっとツァウに残りづらい雰囲気になってしまい、今日も道を歩く。
だが、やっぱり気持ちが中途半端なのと、体の疲労もピークに達しているせいか足取りは重い。早いうちから休み休みしてしまう。
頭の中である曲がリピートして、それを聞くとリラックスする。曲名を思い出せないが、洋楽のフォークソングの有名な曲である。ロードムービーとか車のCMとかで使われてそうなイメージ。
そんな曲を聞きながらふらふら歩いている。
10時半ごろ、上のほうから"come on!"と声がする。たぶんカモン!と言ったのだと思うのだけど、今思うと違うかもしれないが、とにかく"カモン!"という声を「聞いた」のは確かだ。
見上げると女性が一人いて、手招きしている。(これも実際に手招きしていたか良くわからないけど、手招きしているのが「見えた」)
とにかく上がっていくと、小集落がある。女性は木陰まで僕を連れていく。僕は事情を話して、今日ここに一日ホームステイさせていただけませんでしょうか、とお願いする。もう1週間も歩いてきてすっごく疲れていて休息が必要なんです、あと、こういった農家の生活を体験して勉強をしたいんです。いいわよー、と彼女は了承してくれた。ありがとうございます。
ここはマツィアラという村で、ツァウとクンデのちょうど中間、それぞれから18キロのところにある。彼女の名前はオアウエー、お母さんムベッサと、子供が4人、それに弟さんがいる。ヘレーロという民族で、お母さんのドレスと帽子が特徴である。あいさつは「マペンドゥッカ!」。
家族の記念写真を撮影する。「現像したものを送るね!」と約束。
ほどなく、オアウエーは2つの椅子を持ってきてくださった。一つは僕が座るよう、もうひとつは食事用のテーブルである。
テーブルには3つのお皿が並んだ。ひとつはパリチ、もうひとつは砂糖、もうひとつは初めて飲むが、ヨーグルトのような飲み物で、マディーラというとのこと。パリチとマディーラを別々に食べてると、「何で別々に食べてるの?」とオアウエーは言う。貸してみな、とコップを取って、パリチのお皿に注ぎ、砂糖をどばーっとふりかけてかき混ぜる。こうやって食べるのよ、とお皿を渡す。むしゃむしゃ食べると美味しい。これは日本で言うところの卵かけご飯だな、と納得する。
お礼にカロリーメイトを3袋お渡しする。早速子供たちと美味しそうに食べていた。
食事も終わって休憩していると、そこだと暑いでしょ、と部屋を案内してくださる。布団も敷いてくださり、ありがたい。
弟さんがラジオを持って部屋に入ってくる。アンテナを伸ばして、電源を入れ、チューナーを回す。がりがり、じーーーー、がりがり、じーーー、と波長を合わせると、世界の果てから聞こえてくるようなトーンで、聞き覚えのある曲が流れてくる。
ついさっき歩きながら歌っていた洋楽であった。
なんという偶然。うーーん、ナイスDJだなあ。
部屋で寝っ転がってラジオを聞きながらのんびりしていると、オアウエーがマディーラのお代わりを持ってきて下さったりと、至れり尽くせりである。本当にありがたい。
しばらく休んで外に出ると、木の下で洗濯をしている。水は隣の村から買っているという。桶を二つ用意して、ちょびちょび水を入れながら、洗ってすすいで絞る。絞ったものをどうするかというと、ぱっと漁師が投網するように、洗濯物を投げて木に引っかける。枝が鋭いのでうまい具合に引っかかり、自然の物干しざおである。
あんたってブルースのようね。お母さんがいう。ブルースって誰?
2年ほど前、ブルースというアルゼンチン人がこの村に滞在したことがあったわ。彼もやっぱり歩き旅をしていたのよ。彼の場合は、ハボローネ(ボツワナ南端の町)からシャカウエ(北端の町)を目指して歩いていたわ。
ブルース!!スゴイ先輩がいるもんだ。絶対いつか会いたい。
「お風呂入りたいでしょ」とオアウエーは言う。そりゃ入りたいけれど、水は貴重なんじゃないの、と恐縮しながらも、この国でこういう場合に恐縮しているとコミュニケーションがややこしくなる、というのが何となくわかってきたので、「お風呂、入りたいです」と答えると、さっき洗濯に使っていた大きな桶を部屋に持ってきてくれる。ありがとうございます。ちゃぷちゃぷと水浴びをする。部屋の中は意外と風通しが良く涼しくて、お風呂上がりは寒いくらいであった。再び外に出て日陰でのんびりする。お母さんも日陰に座って、同じようにしている隣家のお母さんと世間話をしている。
オアウエーはせわしなく家事をしている。火をおこして、鍋を温め、干し肉をちぎって焼いたものをみんなで食べた。美味しい。時刻は4時前。早い夕飯である。
夕方、散歩する。子ヤギたちが家に帰っていく。鳥が木に止まっている。夕日がきれいだ。
僕たちは焚き火を囲んで夜が来るのを待つ。「行くわよ」とオアウエーが言う。牛の乳しぼりである。暗い中、たいまつも持たずに牛の囲いに向かう。他の村人たちも同じタイミングでやってくる。囲いに入ると、オアウエーはお目当ての牛を探し始める。脇腹をたたいたりして調子を見ているようだ。この牛、と決めたようで、すかさず持っていた縄で後ろの両足を縛る。「乳搾りしたことある?」「いや、はじめて」「こうやるのよ」といって手本を見せてくれる。習っておっぱいをつねるが、うまくいかない。何回かやってみてコツをつかむとミルクは勢いよくバケツに入っていく。
3,4頭しぼって囲いの脇で休憩する。暗闇の中、若い男が携帯電話を持ってダンス音楽を流している。僕たちは踊る真似をしたり、本当に踊ったりする。そのあと座ってなんとなくしていると、「足疲れてるでしょ」とオアウエーが言う。「マッサージしてあげるわ」。足を伸ばすとオアウエーの手がその足を揉みほぐす。慣れた手つきで気持ちいい。「上手いねー」というと「学校で習ったのよ」とのこと。本当は肩を揉んでほしかったけど、そこまでリクエストはしなかった。
家に戻って再び焚き火を囲む。「フレッシュミルク飲む?」とオアウエー。搾りたてを一杯頂く。すーっと嫌みなく入ってくる味。美味しい。
星空の下でおしゃべりしていると、街道からヘッドランプが近づいてきて、家の前で止まる。がちゃん、とドアの開く音がして、足音が聞こえる。男の声がオアウエーと話している。どうやら僕のことを話しているよう。
焚き火を挟んで斜め向かいから男の声が来る。僕にだ。「日本から来たんだって?歩いてるの?なぜ歩いているんだい?どこへ向かうの?ブルースの話は聞いた?」暗闇から矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
男はオアウエーのご主人に違いない。
お母さんが温かいカップを僕に渡す。フレッシュミルクで作ったロイヤルミルクティーだと言う。あたりはすでに真っ暗闇。喉を通る甘ーく温かいミルクティーは僕の心をリラックスさせながら、同時に、顔の見えない推定主人を前に緊張感がただよう。
そのあと少ししてみんなそれぞれの寝床に入った。
朝、部屋でオアウエーからもらった水を飲む。水がすごく不味くて泣きそうになるが、ポカリスエットにしたりしながら何とか我慢してパンを流し込む。石灰のような味の水だ。
オアウエーにお礼をしたいのだが、あいにく大きいお札と小銭しかないので、20プラ札一枚に、日本から持ってきた会津木綿のストールをプレゼントすることにしよう。
部屋を出てラジオ体操をしているとオアウエーが起きてくる。砂糖入りのマディーラを一杯いただく。そのあと、火をおこすオアウエー。僕は部屋からお礼一式を持ってきて渡す。2年前に日本で大きな地震があってね、と会津木綿の由来をくどくどくどくど説明すると、分かったような分からないような顔をする。
オアウエーは部屋に入っていき、部屋から出てくる。僕にテニスボールのようなものを手渡してくれる。
りんごであった。小さな、少し萎れた青りんご。ボツワナで初めて見るりんごである。きっと貴重なものなのだろう。ありがたくいただく。
りんごを食べ終えて、リュックを背負うと、「もう行くの」とオアウエー、「私も行くわ」。見ると、いつの間にか会津木綿を頭に巻いている。厚手の生地のストールなのでちょっとボリュームが大きくてアンバランスのようだけど、きれいにくるっと巻かれていて嬉しい。
街道に出て少し一緒に歩いて、少しして別れる。朝焼けがきれいだなあ、と思って会津木綿のオアウエーと一緒に撮りたいなあと思って振り返ってカメラを向けるとおどけたポーズをとるオアウエー。シャッターを押したけど、いつの間にかふたりは結構離れていて、しかも逆光で、できた写真は豆粒のようなオアウエーしか写っていなかった。
飛脚旅も一通り終え、今日はバスを使って出発地のマウンへ帰ろうと思う。ずーっと歩いてきた道を、バスでしゅーんとプレイバックするのである。
バス停に7:00過ぎに行くと、8:15ごろにバスが来て、8:30過ぎに発車した。しばらくすると車掌さんが切符を売りに来る。僕は「マツィアラ!」と元気よく言う。完璧な発音で。はじけるような"tsi"と、5回は巻き舌したであろう"ra"で。車掌さんは一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、料金テーブルを指でなぞって値段を言う。シャカウエからそんな離れたcattle postに行く人はまずいないし、しかも良くわからない東洋人の旅行客がそんなところに行くのは謎に違いない。
記念写真を送るね、とオアウエーに約束したのを覚えている。なので、写真を渡すのを口実に、もう一度オアウエーに会いたいと思っている。次にここを通る、2時間後のバスに乗ろうと思う。
運転手もやっぱりプロだなあ、と思う。ずーーっと同じようなサバンナの光景が続く中、正確にマツィアラの位置を見極めて停車する。僕はバスを降りる。時刻は12:30である。
ぽつんとひとり荒野に残されて一瞬寂しくなるが、丘を登ると懐かしい集落が見えてきて安心する。オアウエーの家が見えて、オアウエーがいる。今日は赤い服を来ている。手を振って呼びかけると、すぐに気付いて走ってくる。抱き合って再会を喜ぶ二人。
お母さんもこないだと同じ場所に座って編み物をしている。子供たちも元気である。みんなこの間と違う服を来ているのが不思議な感じがする。
曼珠沙華に似た赤い花が植えてあって、旅立ちの時に東京で呼んだ句を思い出す。
最初に休憩した木陰の木が切られていて、枝は薪にされている。マディーラをいただきながら旅の思い出などを報告する。
爪切りを借りて、爪を切らせてもらう。刃が悪いのか、僕の爪が伸びすぎなのか、うまく切れず時間がかかる。「手伝おうか?」とオアウエーは言うが、何をどう手伝うのか分からないし恥ずかしいので断る。
おなか減ったでしょ、と干し肉のステーキを作ってくれることになった。が、2時間というのは意外と短いもので、時計を見るとすでに2時に近い。2時半には路上にいたいのでちょっと焦るが、この国の料理というものはとにかく時間がかかるもので、まあその次のバスでも何とかなるだろう、と思いながら待つ。
思い出したかのようにオアウエーは立ち上がって、「そういえば私の部屋見てないでしょ」と部屋へ案内してくださる。壁にはさっき渡した写真がすでに貼ってある。他にも写真が幾つか貼ってあって、これが学生のころの私で、これが結婚式の写真、と美しいウエディングドレス姿を見せてもらう。ちょっとジェラシーです。
そうこうしているうちに肉が焼けてみんなで美味しくいただく。
時計を見ると2時20分。「そろそろね」と残りのマディーラを飲みほして立ち上がり、2人で街道へ向かう。
坂を下りながら、あと数mで街道へ出る、というとき、後ろから大きなエンジン音が聞こえる。「あれは何!?」とオアウエー。しゅーーんっ、と乗るはずのバスが通り過ぎていく。「走って!!!」と言われた時にはもう走っていて、手を振りながら猛ダッシュでバスを追いかけるとバスはテールランプを灯して減速していく。一瞬振り返ってオアウエーに「グッバーイ!」と手を振って停止したバスに駆け込む。感謝である。
コメントをお書きください
ヌール (月曜日, 11 11月 2013 00:01)
なんだかどきどきして読んでしまいました。
旅にはいろんなドラマがあるよねぇー。
飛脚の加藤 (月曜日, 11 11月 2013 10:22)
ヌールさん、こんにちは!
お読みくださってありがとうございます。
旅は本当に思いがけないドラマがあるから楽しいですねえ
ひー (金曜日, 26 9月 2014 12:58)
素敵なドラマ。
再会の旅、楽しみにしています。
飛脚の加藤 (金曜日, 26 9月 2014 21:15)
ひーさん
お読みくださりありがとうございます。
コメント嬉しいです!
あーー、会いに行きたい!また報告しますね!